7月12日12時0分配信 毎日新聞
◇個人情報公開、新たな苦痛も
性犯罪が裁判員裁判の対象になると、被害者の個人情報や事件の詳細が裁判員とその候補者に知られ、被害者に新たな苦痛を強いるのではないか。こうした当事者や支援団体の懸念に対し、最高裁や各地裁は公開範囲の制限も検討している。捜査段階から判決を言い渡した後まで、従来より手厚く被害者を保護する態勢の構築が求められる。【山中章子】
強姦(ごうかん)致傷など一部の性犯罪は、最高刑が死刑や無期懲役または禁固と定められているため、裁判員裁判の対象になる。5日現在、全国の対象事件の起訴件数は200件で、性犯罪は31件に上る。過去の司法統計から、今後の裁判員裁判でも2割を占めると予想される。県内の08年の起訴件数をみると、裁判員裁判の対象は11件あり、うち2件が性犯罪だった。
NGOアジア女性資料センター(東京都)と全国52の女性団体などは裁判員制度の開始を目前に控えた5月、文書で被害者のプライバシー保護を最高裁に要請した。とりわけ守秘義務を負わない裁判員候補者にまで被害者情報が示されることを問題視している。
要請者の一人で、実体験を基に「性犯罪被害にあうということ」(朝日新聞出版)を出版した東京都の会社員、小林美佳さん(33)は「匿名であっても話題にされることは苦痛だ」と指摘する。
これまでの裁判でも、服装や行動から落ち度があると指摘されたり、恐怖で抵抗できなかった状況を加害者側から「同意していたからだ」と主張されたりと、2次被害を受ける場面は多かった。先入観のある裁判官や弁護人から「(ショックを受けている被害者が)堂々と証言できるのはうそをついているからではないか」と言われた例もあった。
犯罪被害者問題に詳しい武蔵野大の小西聖子教授(臨床心理学)も「社会に偏見がある状態で、裁判員が事件を公平に判断できるだろうか」と懸念する。
小林さんや小西教授らは「被害者をケアする仕組みが必要だ」と話す。米国や韓国には法律家や警察官、産婦人科医、ケースワーカーらで作る「ワンストップセンター」がある。捜査から裁判、その後の生活まで一貫して性犯罪被害者を支援している。日本には民間シェルターしかない。
要請を受けた最高裁は工夫例を示すにとどまる。裁判員候補者に被害者の氏名、住所などを口外しないよう依頼する▽犯行現場が被害者の自宅の場合、現場住所を示さない−−などだが、各地裁の判断に任せている。
強盗強姦事件で裁判員裁判の日程が決まった青森地裁では、選任手続き時に被害者を匿名とし、住所は市まで、年齢と性別はそのまま公開する。公判で裁判員に証拠資料をどこまで開示するかは未定だ。盛岡地裁の伊藤茂勝総務課長も「個々の事件で判断するしかない」と明確な指針を示さずにいる。
小西教授は「被害者保護が十分と言えない。できるだけのことは検討すべきだ」と訴える。
■ことば
◇裁判員裁判対象の性犯罪事件
強姦致死傷、強盗強姦、強制わいせつ致死傷、集団強姦致死傷の罪が該当する。未遂でも、もみ合った際に殴られるなどしてけがをし、強姦致傷罪や強制わいせつ致傷罪になるケースも対象になる。
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